コウコラム:「服を買わない生活」の中で考えたアレコレを書きます

第743回 シャーロック・ホームズと良妻賢母


『シャーロック・ホームズの世紀末』
(富山太佳夫著/青土社)を読みました。

本の主人公は、
シャーロック・ホームズ物語を書いた
コナン・ドイルです。

ドイルは1859年生まれ。

大英帝国の植民地だったアイルランドに
同じく出自を持つオスカー・ワイルドの
5歳年下になるわけですが、
この本はドイルの評伝であり、
ヴィクトリア朝という時代を書いた
世界史本でもあります。

多くの人物名が登場するんですが、
この本ではじめて名前を知って
最も印象に残ったのは、
ロジャー・ケイスメント。

ドイル、ワイルドと同じく
アイルランドに出自を持ち、
ドイルよりも5歳年下で、
1911年に
ナイトの称号を与えられながら、
1916年に
叛逆罪で絞首刑になった人物です。

ケイスメントについて語った
ドイルの文章は、
人間という生き物について、
歴史に名を残す作家について、
生き延びるということについて、
考えさせてくれます。

私がヴィクトリア朝に
興味を持つようになったのは、
手芸や洋裁が好きな自分が
イヤだったのがきっかけです。

なぜイヤなのか、
自己探求して
良妻賢母という思想に向かい、
その思想が確立する過程をたどったら
ヴィクトリア朝らしいぞ、
となったわけです。

ヴィクトリア朝期に登場した考え方の
ひとつに「進化」があります。
良妻賢母も、この「進化」という
考え方の一部です。

人間はよりよく進化していくものだ、
よりよく進化しない人間は間違いだ、
って考え方です。

NHKの朝ドラ「花子とアン」で
女学校の卒業式に外国人の校長先生が
「女学校時代がよかったなんて
言ってはいけない」みたいなセリフで
送り出し、生徒を感動させていましたが、
あの発言の背景にあるのが
「進化」という考え方です。

必ず人間はよりよく成長し、
「進化」していくのだ!

過ぎ去った「未発達」の時代を
懐かしむな!

ところが、
ヴィクトリア朝期は、
「資本主義社会」が
完全に出来上がったがゆえに
精神的にはドンづまってた時代です。

お金のために「奴隷」となって
働く人間の心は傷み、
神経衰弱(何でもかんでもそう名付けた)
という「心の病気」が
注目されるようになりました。

ヴィクトリア朝期は、
「傷んだ心」がはじめて「病気」だと
認定された時代でもあります。

神経衰弱、ヒステリー、
躁鬱病、アル中、同性愛者、
芸術家なんかも、
よりよく進化していない人間と
見なされたようです。

と言っても、
別に決まりとか法律が
あったわけじゃなくて、
そういうことらしいと思わせる言説が
流布していた、ってことのようです。

ヴィクトリア朝期は、
雑誌や新聞などのマスメディアが
発達した時期でもあります。

人気小説家(つまりコナン・ドイル)とは、
そういう「進化」という考え方を
「正しい」と思い込ませる「装置」に、
意図せず、なってしまう存在である、
ってことですね。

よりよく進化しない人間、
こうした存在を
「変質(degeneration)」と
言うそうです。

「退化」と訳された時期もあったそうですが、
猿が人間へと「よりよく」進化したのに対し、
「変質」は、猿への逆もどり、
つまり「退化」だという解釈。

よりよく進化していくのが
「自然」な進化だから、
「変質」した人間は、
淘汰されて消滅していく運命にある、
という考え方に発展していきました。

夏目漱石がロンドン留学によって
「心の病気」を悪化させて帰国したのも、
この「変質」という考え方を知り、
「変質」人種に日本人も含まれる、
と知ったことが大きかったのでは。

そして、コナン・ドイルも
「変質」に恐怖したひとりでした。
変質は遺伝だと信じられており、
コナン・ドイルの父親は
アル中だったそうです。

「変質」を受け継ぎ、
淘汰される運命に転落する不安が、
人気小説を書く原動力になった。
そう著者は解釈しているように読めました。

コナン・ドイルは、
ヴィクトリア朝という時代に
真面目に追従した「俗人」で、
だからこそ多くの読者を得た、
と著者は書いています。

ものすごく売れた小説を
書いた人の評伝とかで、
その作家は要するに俗物だったとか、
俗人だったとかって言説は
珍しいものではありません。

売れた小説を書いた人は「天才」
あるいは「教養人」だったわけではなく、
上昇志向の強いフツーの人だった、
って解説ですね。

こういう言説は、一面には、
売れた小説家に対するファンの幻想を
打ち砕こうとする目的があり、
なぜ打ち砕こうとするかといえば、
ある意味、「ウソ」である創作物それ自体に
惚れ込んだり、その「ウソ」を信じ込んだり、
そういう「ウソ」を書ける人物を
無批判に全肯定したりする危険性に
警告を発しているんだと思います。

まあ、だからと言って、
創作物を読んだり見たりすることを
無意味だと言っているわけじゃなくて、
「ウソ」物語が「ウソ」であることを
認識した上で楽しみ、
どうせファンになるなら、
ファンだという地点にとどまって
思考停止するのではなく、
「ウソ」物語が書かれた時代背景等に
興味を持って本を読むとか、
友人知人と会話するとか、
つまり、もっと勉強しなさいよ、
とっかかりは何でもいいんだ、
ってなことを言っているのではないかと
私は思います。

そうやって読まないと、
上から目線過ぎてイヤみ過ぎる、
っていうかね(笑。

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