クレヤン.コム

すっごい楽しみにしてた
トントン（クレヤン12号参照）の最新刊、
『小谷野敦のカスタマーレビュー2002‐2012』
（小谷野敦著／アルファベータ）読了しました。

毎度のことながら
（って、トントンの著作読破いまだならず（泣）、
知的好奇心をものすっごく刺激された。
読みたくなった本や観たくなった映画が
たくさん〜。

トントンが、
2010年から12年の間に
主にアマゾンレビューに
実名（これ、ポイント）で書いた
小説や映画の批評をまとめた本なんだけど、

作家と作品、
あるいは監督と作品は別に評価する
という姿勢が貫かれているのが素晴らしい。
信用できる。

たとえば、トントンが、
人間的には評価してないらしい
作家の島田雅彦の『忘れられた帝国』は★３つ
（最高は★5つ）で、

〈今まで読んだ島田雅彦の小説の中では最もまとも〉
って書いてあるだけで、読んでみたくなった。

私なんか、島田さんて、
デビュー作の『優しいサヨクのための嬉遊曲』が
超つまらなくて、以来、
島田さんの書く小説はつまらないと思い込み、
一冊も読んでない。

そんな島田さんの★３つの小説って、
わりと面白いのでは、
と付箋を貼っときました。

ちなみに、島田さんがさんづけなのは
面識があるからじゃなくて、
私が東京外国語大学在学中に
島田さんがひとつ上で
ロシア語学科に在籍してて、
で、小説家デビューして、
『優しいサヨクのための嬉遊曲』が
大学の生協に山積みになってて、
ポップでものすごく面白いって
大絶賛されてたので買った、
という点で妙に親しみがあるというだけ。

ツルシ編集長が
週刊サンケイ時代に面識があって
「島田さん」て呼ぶせいもある。

作品を純粋に作品だけで評価するには、
評価する人が膨大な知識を持っていないと
できないし、なおかつ、
筋の通った自分独自の
評価基準がないと無理だし、
なおかつ、
面白い小説や映画を書いて作って
生きていきたい人間の未来を
本気で想っていないと
できないことのような気がする。

しっかし、トントンの知識は、
古典からサブカルまで超広いし超深い。

東大だし元大阪大学助教授なんだし
あたりまえだよねえみたいに思ってはいけない。
というのはトントンの本を読んで学んだ。

東大卒でも院卒でも教授でも学者でも
ウッソーこんなこと知らないの、
って人はいるらしい。

トントンはトントンだからスゴいのだ。

あと、誰かがいってたけど、
批判するにはその人の全部の作品を
読んでなきゃ、って。
これもできそうでできないからねえ。

私の場合、なんとなく嫌い、とかって
オンナみたいなこと（笑）いっちゃうし。
で、嫌いだから読まないのっ、とか。

後味が悪い、笑える、不快とかってコメントで
★５つをつける評価の仕方もイカしてます。

たとえば、映画『ゆれる』（西川美和監督）の
〈優等生的でもなくて後味は悪いし〉とか。
なるほどあの、
どうとでも解釈できて気持ち悪さが残る、
って感じは「後味が悪い」ってことなのか、とか。

書名のつけ方に「わかりにくい」とかって
つっこんでるところも興味深い。

トントンがいかに、
わかりやすさに重きを置いている作家か
ってことだ、と私は思う。

しっかし、この本は、
トントンのアマゾンレビューをまとめて本にしよう、
と思いついた編集の勝利の本ですね。

トントンにも、編集発行人の中川さんにも
面識がある私が書くと
まるで信用できないでしょうが、
面識があるというだけで、
決してお友だちではありません。

ので、お世辞ではない。
いやむしろ、スゴい人たちなんで、
無理矢理面識を得た、が正しい関係なので。

というわけで、
すでに書かれたものをどうまとめるか、
これぞ編集力、企画力だよねえ。
時間をかけて作ったものが
素晴らしいとは限らない、ってやつ。
あら、裁縫と同じだわ（笑。

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