第1391回　死ぬまで成長をのぞんだ女性

コウコラム：「服を買わない生活」の中で考えたアレコレを書きます

2016-03-13（日）

伊藤野枝原作「動揺」を
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伊藤野枝の生涯については、
ツルシカズヒコ執筆中の
「あきらめない生き方　詳伝・伊藤野枝」を
読んでいただくとして。

伊藤野枝の最も有名な経歴は、
1923年、関東大震災の混乱に乗じて、
無政府主義者・大杉栄とその甥とともに
憲兵に虐殺された、
わずか28歳の生涯を終えた女性、
という点でしょう。

関東大震災時、
国家側は一般市民を「守る」ために
「危険人物」や「外国人」を取り締まり、
殺しました。

そういう「保護」活動をせよという「命令」が
下されたためで、その「命令」が
２年後の治安維持法として成立します。

コワいのは、
そういう国家側の保護活動に乗じて、
ウソの情報を信じ込んだ一般市民も
社会主義者や外国人を危険とみなし、
殺害してしまったことです。

大杉栄と伊藤野枝の虐殺を主導した
と言われる憲兵大尉・甘粕正彦を、
当時は多くの人が、
庶民を守った「英雄」と認識し、
学校の教師も子供にそう教えたそうです。

大杉栄は、
私の出身県である新潟県で育った人であり、
私が中退した東京外国語大学
（当時は東京外国語学校）出身者ですから、
ざっくりとは知っていましたが、
伊藤野枝については
ほとんど知りませんでした。

野枝を知るきっかけは、
ツルシカズヒコに教えられて、あ、いや、
うるさいながらも（笑）ツルシの解説つきで、
映画『エロス＋虐殺』（吉田喜重監督）を
観たこと。

その後、これまた、ツルシに教えられて
（「おうちでも全身編集者なんですね」と
評した人がいます（笑））、
瀬戸内寂聴の『美は乱調にあり』を
はじめとする、野枝関連の創作物などを
読まされ……あ、いや、読みました。

私自身は、子供のころから
dada的なものに憧れてきたので、
野枝のようなpassionateな人には、
あまり共感する部分がなく、
むしろ、
野枝関連の創作物ではじめて知った
辻潤にものすごく興味を持ちました。

特に、虐殺された野枝の追悼文として
書かれたエッセイ「ふもれすく」は、
私がはじめて快感を得た文章と言っても
いいくらい。

「ふもれすく」は、
時系列に沿わないという点では、
おそろしく自由で、
rhythmicalであるという点では、
タイトルの名曲ユーモレスクに匹敵する
かもしれないほどの美しい音楽だと思います。

加えて、
日本の近代史がコンパクトに収まっている
という点では、超知的な文章でもある。

こういう妙なご時勢になってきましたから、
最近、大杉栄の無政府主義が
一部インテリの間で注目を浴びているらしく、
伊藤野枝も女性アナキストとして
再評価が進んでいるとかいないとか。

私自身は、
アナキストとしての野枝には関心はありません。

死ぬまで成長をのぞんだ人として興味があります。

なぜなら、
生きるとは成長することだと思うから。

私自身も死ぬまで生きたい、つまり、
成長したい、と思うようになったからです。

成長は、ひとりでは不可能です。

辻潤の存在なくして
伊藤野枝という人間は作られなかった、
という点に、私は注目しています。

野枝の成長を促す最初のきっかけが
「動揺」事件だったのではないでしょうか。

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