詳伝・伊藤野枝

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「詳伝・伊藤野枝」第265回 大杉栄と代準介

文●ツルシカズヒコ 一九一八(大正八)年六月、野枝は安谷寛一に葉書を書いた。 宛先は「神戸市外東須磨」(推定)。 発信地は「南葛飾郡亀戸町二四〇〇番地」(推定)。 其後いかゞ。 お子達はお丈夫ですか。 私の処の赤ん坊もやう/\のことでなをり...
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「詳伝・伊藤野枝」第264回 茶ア公

文●ツルシカズヒコ 亀戸で『労働新聞』を出していたこのころのある朝の出来事を、野枝は「化の皮」という作品にした。 朝の七時ごろ、玄関の戸を開けている和田に、取り次ぎを頼んでいる男の声がした。 野枝と大杉はまだ床の中にいたが、和田が名刺を持っ...
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「詳伝・伊藤野枝」第263回 戯談

文●ツルシカズヒコ 一九一八(大正七)年四月七日、赤坂の福田狂二の家で「ロシア革命記念会」が催された。 広義の社会主義者の内輪の集まりだった。 堺利彦、大杉栄、荒畑寒村、高畠素之といった各派の顔合わせであり、馬場孤蝶、当時まだ早稲田の学生だ...
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「詳伝・伊藤野枝」第262回 後藤新平様

文●ツルシカズヒコ 一九一八(大正七)年三月九日、野枝は筆を執り、内務大臣の後藤新平に宛てて「抗議状」を書いた。 前おきは省きます。 私は一無政府主義者です。 私はあなたをその最高の責任者として、今回大杉栄を拘禁された不法に就いて、その理由...
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「詳伝・伊藤野枝」第261回 MAKO

文●ツルシカズヒコ 一九一八(大正七)年三月六日の夕方、野枝は牛込区市谷富久町の東京監獄から、南葛飾郡亀戸町の家に帰宅した。  野枝は大杉に宛てて手紙を書いた。 今日は、あの寒い控所に小半日待たされました。 そして碌そつぽ話も出来ないんです...
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「詳伝・伊藤野枝」第260回 東京監獄・面会人控所(六)

文●ツルシカズヒコ やがて村木が帰って来た。 「どうでした和田さんは?」 「ええ、元気でニコニコしてましたよ。これからゆっくり勉強するんだなんて言ってました」 少し話すと、村木は今夜また会うことを約束して、先に帰った。 野枝のポケットの時計...
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「詳伝・伊藤野枝」第259回 東京監獄・面会人控所(五)

文●ツルシカズヒコ 遠くの方で子供の泣き声がする。 と思ふうちに、火のつくやうな激しい泣き声がだん/\に近づいて来る。 皆んなが一斉にはつとしたやうな顔をして廊下の方を向いてゐた。 と其の扉口に眼に一杯涙をためて、半泣きになつた惨めなかみさ...
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「詳伝・伊藤野枝」第258回 東京監獄・面会人控所(四)

文●ツルシカズヒコ 東京監獄の面会人控所にいる人は、とにかくこの未決なり既決に囚人としている人と、何かの関係のある人に違いない。 そう思った野枝は、いろいろ思考をめぐらせた。 親子であり、夫婦であり、あるいは親族であり、友人であり、知人であ...
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「詳伝・伊藤野枝」第257回 東京監獄・面会人控所(三)

文●ツルシカズヒコ 「七十二番」という番号札を受け取った野枝は、東京監獄の面会人控所で順番を待ち続けていた。 控所の中の人間の半数は女だった。 かなり年増の如才ないいかににも目はしの敏(さと)く利きそうなキリッとした内儀(かみ)さんや、勝気...
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「詳伝・伊藤野枝」第256回 東京監獄・面会人控所(二)

文●ツルシカズヒコ 「ガターン」 控所のすぐ近くの部屋の入口の重い扉が、力いっぱいに手荒くブツケるように閉める音がした。 「まあなんて嫌な音だろう。まるで体がすくむような音ね」 「……あの音を聞くと実に……しばらくあの音を聞かなかったなあ」...
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「詳伝・伊藤野枝」第255回 東京監獄・面会人控所(一)

文●ツルシカズヒコ 一九一八(大正七)年三月六日。 橋浦時雄のところに魔子を預けた野枝は、大杉に面会するために牛込区市谷富久町にある東京監獄に行った。 朝は煙るような雨であった。 伊藤野枝女史がマ子ちゃんを連れて来て、まだ床を離れぬ僕の側に...
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「詳伝・伊藤野枝」第254回 カムレエドシップ

文●ツルシカズヒコ 一九一八(大正七)年三月四日、牛込区市谷富久町にある東京監獄に面会に行った野枝は、そこで堺利彦と遭遇した。 堺は大杉グループとは無関係の大須賀を巻き込んだ大杉の無謀を、非難がましく野枝に当てつけた。 堺の腹の中を見せつけ...