コウコラム:「服を買わない生活」の中で考えたアレコレを書きます

第2137回 『プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』


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 今日のコウ手芸部では、旅行会社勤務のKさんが、某スポーツ観戦に着て行くためのオリジナルデザインの浴衣を製作しました。ファンである某ヨーロッパ選手チームや友人をビックリさせたいということで、本日ほぼ完成したファンタスティックな作品をここにアップすることはできません。

 そんなKさんと、レッスンの合間に少しおしゃべりしたのですが、海外のお客さんに対応するうえでの苦労について聞きました。その一つが、食べ物問題。ビーガンとかハラルかなと思ったら、最も頭を悩ますのが、「グルテンフリー」だそうです。グルテン、つまり、原料に麦を使っていないものってことですね。実際にアレルギーがある人から、健康目的で「グルテンフリー」を求める人もいるようです。麦を主食にしているヨーロッパの人が「グルテンフリー」を求めるとは意外な感じです。だから、和食が人気なのか?と思ったり。そんな会話をしながら思い出したのが、最近、読んだ本です。

『プラスチック・フリー生活
今すぐできる小さな革命』という本↓

 この本については、ダイビングが趣味のSさんとの会話でも話題にしたのですが、最近、メディアでもよく取り上げられる海のプラスチック汚染などがテーマの本です。実際に海のなかを見ているSさんに聞いても、海のなかに人間が出したゴミはたくさんあるそうです。空き缶を「家」にしちゃっている海洋生物もいるとか。ホントにかわいそう、それなのに、福島第一原発の放射能汚染水を海へ放出するとか、沖縄・辺野古の海に土砂を入れるとか、とんでもない!と怒っていました。全く同感です。

『プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』は、カナダに暮らす環境保護ビジネス企業家のシヤンタル・プルモンドンとジェイ・シンハの夫婦の共著で、翻訳は服部雄一郎さん。服部さんは、プラスチックフリー生活の実践者でもあるようで、以下でその取り組みが紹介されています。

ゼロ・ウェイスト・ホームへの道

同書の日本語版解説を書いている東京農工大学の高田秀重教授は、以下の寄稿を行っています。

プラスチック汚染が人類の未来に影落とす
根拠代替品使用で始める「脱プラ生活」のすすめ

 同寄稿文で、私が注目したのは、プラスチック容器などを飲食に多用すると有害化学物質にさらされるということが、〈報道されない点も大きな問題〉という部分です。プラスチック汚染の報道は、それを生み出す企業の社会的責任を追及することになります。アメリカでは、最も危険なプラスチックともいわれる「テフロン」を生産していたデュポン社が市民に訴訟をおこされる事態となっており、海外メディアはそれを大きく報じていました。大企業優先社会である日本のメディアがプラスチック汚染を報じない理由はそこにあると思われます。全く報じないわけじゃないのも「姑息」なところではないかと私は思います。深夜枠とかでこっそり報じたり、真に本質的な問題を隠して報じたりするのは、私たちの「知る権利」に応えていないと思います。なぜ、もっと、ズバリ、端的に、わかりやすく、報じられないのだ!と怒りが湧きます。

◎ちなみに、
デュポン社については、NHKの
「映像の世紀」第5週
「グレートファミリー 巨大財閥の100年」

に「戦争で儲けた財閥」として登場していました。 

◎デュポン社訴訟についてはこちら↓
米デュポンとケマーズ、
水質汚染訴訟で和解金支払765億円

(2017/2/14付日経新聞)

◎今年5月放送の
NHK「クロースアップ現代」、
「化学物質〝水汚染〟 
リスクとどう向き合うか」
でも、
デュポン社の訴訟に触れていたようです。

 少し話がそれましたが、高田教授執筆の「プラスチック汚染が人類の未来に影落とす根拠」 では、プラスチック汚染で最も問題なのは、〈プラスチックが……将来の世代への負の遺産であるという点〉だと書いています。だから、すぐに被害症状が出るという印象を与える〈「健康被害」という言葉自体が適切ではない〉とし、〈健康レベルの長期的な低下〉という表現が適すと高田教授は書いています。『プラスチックフリー生活』で強調されているのも、そうした「将来世代への負の遺産」という観点からの、プラスチックフリー運動の呼びかけです。

 しかし!『プラスチックフリー生活』を読んだ正直な感想としては、プラスチックフリー生活の実践はかなり難しい。まず、お金がかかる! でも、本の著者たちも言っているように、すぐにすべてのプラスチック製品を捨てるとか、すべてを高価なプラスチックフリー製品に買い替えようとかいうのではなく、最初の「気づき」がいちばん大事だといいます。それには、激しく同意します。

 『プラスチックフリー生活』には、プラスチック早見表が掲載されていて、「絶対避けたい」「避けたい」「比較的安全」のランク分けされています。それを読むだけでも勉強になります。特に、私の「専門分野」でもある生地もプラスチックとおおいに関係あります。

 ポリエステル生地は「避けたい」、つまり、危険度「中」です。ポリエステルなど石油でつくられた生地を「合成繊維」といいますが、「合成繊維に潜む危険」というコラムもあります。合成繊維は、家庭用ミシンで縫いにくいので、コウ手芸部参加のみなさんには、常に「避けたほうがいい素材」として伝えていますが、そう言うとよく「ではなぜ、既製品には合成繊維が多いのか?」と聞く人がいます。それは、簡単。合成繊維は、大量生産に向く素材、いや、大量生産用に開発された素材だからです。家庭用ミシンは、大量生産用の道具ではないし、個人での製作は大量生産ではありません。

 それから、私が生地についてよくする話に、生地に施されている「加工」についてがあります。防縮加工とか、防しわ加工とか、防水加工とか、そういう「加工」ですね。ここに何度か書いていますが、私は以前、ルポ漫画をかくために、生地の「加工」を専門とする工場の取材をしたことがあります。入った瞬間、ものすごい薬品臭い。いろんな加工を行うために、いろんな「薬品」を使うのです。その工場では、「オガーニックコットン」の「加工」もしていましたが、その「加工」とは、「何もしないこと」。「オガーニックコットン」の「加工」は、工場の建物自体もほかの生地加工とは別棟の「隔離」された工場で行います。「オーガニック」のシールを貼るだけが「加工」なのです。ほかの生地への「加工」が、いかに「危険」なものかがわかりました。

 『プラスチックフリー生活』の「合成繊維に潜む危険性」というコラムとそれにつづく「洋服のプラスチックフリーに向けて」の1項目目は、「いきなり買わずに、まず調べる」です。裁縫手芸教室をやっていて感じるのは、自分の体に触れる衣料の素材について知らない人の多さです。そして、つくるようになったら、素材や構造が気になるようになったという人の多さです。「調べる」には「知識」が必要です。

 「洋服のプラスチックフリーに向けて」の5項目目には「天然繊維を使って手作りする」もありますが、これも「現実的ではない」と感じる人が多いでしょう。しかし、「手作り」の価値は、プラスチック製品の代替品を単につくるというだけではなく、「知識」や「気づき」を得るという効果があります。大量生産品が氾濫している現在、「学び」のほうが、大きい目的ではないかとも思います。作るという発想でないと見えないことがあるというか。

 ヨーロッパでは、すでに、バイオプラスチックへの転換やプラスチックを使わない生産・流通の仕組み作りへ舵が切られています。日本のプラスチック廃棄物は、米国、中国に次ぐ3位という推計もあるようです。海に大量のプラごみを流出させている国の一つでありながら、日本では、プラスチックを使わない生産・流通への取り組みが立ち後れています。二〇一八年にカナダで開かれたG7では「海洋プラスチック憲章」がまとめられましたが、日本と米国は署名しませんでした。両国政府は、世界の流れを無視して、何を、誰を大事にしているのでしょうか。

 「プラスチック汚染が人類の未来に影落とす根拠」 で高田教授は警告しています。〈日本の産業界も非科学的な抵抗や火消しはやめて、事実を直視して、脱プラスチックの国際的なルール作りの中に入っていかないと今世紀後半には国際的な経済活動が立ちゆかなくなると思います〉。私たちができることについては、〈市民が使い捨てのプラスチックを使わないよういにしたり、プラスチック製容器入りの製品を選ばなくなることにより、プラスチック汚染を実際に減らすこと〉だといいます。当然、そうした一人ひとりの小さな取り組みの積み重ねも重要ですが、大量生産・大量消費という社会のあり方自体も考えなくてはいけないような気がします。いまどき、服を自作することは非現実的なこととして一笑に伏す人がいますが、「新たな視点」をもつことで見えてくるものはあると思うのです。


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