伊藤野枝年譜 1917年(大正6年)22歳


【1月】
●堺、東京市から第十三回
衆議院議員総選挙に立候補。
4月選挙、二十五票で落選。
➡『パンとペン 社会主義者・堺利彦と
「売文社」の闘い』(p321)
➡『一無政府主義者の回顧』p181

●『新社会』(三巻五号)、大杉を非難。
堀保子、大杉との関係を
絶ったとの広告を出す。
堺「大杉君の恋愛事件」
高畠「大杉事件と自由恋愛と社会主義」
山川「恋愛と刃傷と小生の感想」
宮嶋「大杉事件の真相」

●『新日本』7巻1号。
大杉「ザックバランに告白し輿論に答う」

山田わか、山田たづ、
与謝野晶子(『太陽』)、
岩野泡鳴、武者小路実篤、
赤木桁平(こうへい)、一条生、
坪内士行(しこう)、安部磯雄らに反論。

事件後、らいてうが野枝に葉書を出す。
「こんどのことはあなたがたに
反省のいい機械を与えたことでしょう」

【2月】
●大杉(32歳)訳著『男女関係の進化』
(ルトウルノ)。

●2/17
大杉、明治大学「駿河台文芸講演会」で
講演する。
招聘したのは当時の明大生、
佐々木味津三(後に作家に。
「旗本退屈男」など)。

●2/19
神近市子(29歳)、
横浜地方裁判所で第一回公判。

●野上弥生子『中央公論』2月号に
「彼女」(野枝との交流)発表。

【3月】
●3/5
神近に四年の刑が下る。

●3/7
神近、保釈(懲役4年)になり
宮嶋資夫夫妻宅に滞在。

宮嶋資夫の妻、麗子(旧姓・八木麗子)は
元『万朝報』記者で『蕃紅花』同人。
神近は八木麗子の影響で社会主義に
興味を持つようになった。
➡『神近市子自伝 わが愛わが闘い』p138

大杉以前の神近の恋人、
高木信威との間の子供、
礼子(神近の郷里に預けてあった)が
保釈後すぐに病死。
➡神近市子『引かれものの唄』

心中未遂事件「千葉心中」。
枢密院副議長・芳川顕正伯爵家の
芳川鎌子とお抱え運転手・倉持陸助、
省線千葉駅近くの県立女子師範学校脇から
走行する6時55分千葉発本千葉行きの
単行列車に飛び込み自殺を図る。

●3/8
ロシアで2月革命。
ロシアの首都ペトログラード
(後のレニングラード、
現・サンクトペテルブルク)で、
食料配給の改善を求めるデモ、暴動。

3/15にニコライ2世が退位し
300年続いたロマノフ王朝による帝政が崩壊。
共和制国家誕生。

立憲民主党(カデット)主導の臨時政府と
ボリシェヴィキ主導のソヴィエト
(労働者・農民・兵士の評議会)の
二重権力状態となる。

臨時政府の実権は社会革命党のドゥーマ議員で
ペトログラード・ソヴィエトの副議長にもなった
アレクサンドル・ケレンスキーが握る。

8月、ニコライ2世は妻や5人の子供とともに
シベリア西部のトボリスクに流される。

AlexeiNicholas1917

Tsarevich Alexei Nikolaevich and
Tsar Nicholas II sawing wood
at Tobolsk in 1917

From Wikimedia Commons

●3/24
大杉と野枝、菊富士ホテルを出て転々とする。

●堀保子、『中央公論』3月号に
「大杉と別れるまで」発表。

【4月】
●4/20
第十三回衆議院議員総選挙の投票日。
堺、東京市から立候補したが落選。
普選と言論、集会、結社
及び婦人運動の自由を主張。

長江、応援演説をする。

●長江、『新小説』に
「家族主義道徳の余命いくばくぞ
ー某伯爵令嗣夫人に対する輿論を
吟味して」発表。
「千葉心中」に言及。

【5月】
●『中央公論』5月号。
大杉「丘博士の生物学的人生社会観を論ず」
➡『大杉栄 伊藤野枝選集 第十三巻』

●5/7
在京、各派社会主義者有志が
芝区新桜田町の山崎今朝弥宅に集まり、
メーデーの小集会。
ロシア3月革命について報告がある。
『一無政府主義者の回想』p183

【6月】
●大杉訳著『民衆芸術論』(ロマン・ロラン)。
文芸界に「民衆芸術」ブーム。

●6/9
長江の妻・藤尾、死去。

●6/17
神近、控訴審判決。
懲役2年の刑を宣告される。

神近が10月3日に下獄するまでに
書いたのが『引かれものの唄』。
➡『』

●6/24
大杉、翻訳書『民衆芸術論』を
和蘭陀書房(アルスの前身)から出版。
ロマン・ロラン著『平民劇場』の翻訳。

【7月】
●7/6
大杉&野枝(22歳)
北豊島郡巣鴨村大字宮仲二千五百八十三
(豊島区東池袋)に移転
(『炎の女 伊藤野枝伝』では9月)。

【8月】
●国枝史郎編集発行
『人間社会』創刊号(1917年8.5)
野枝「或る日或る時」、
神近「勝利の恋愛」、
堀「芝居を見に行く」。

●夏
らいてう一家、女中も連れて、
茅ヶ崎から東京府下滝野川に一戸を構える。

【9月】
●野枝「自由意志による結婚の破滅」
(『婦人公論』)。

●早稲田騒動、勃発。尾崎士郎が関わる。

●9/18
野枝、辻との協議離婚成立、伊藤家へ復籍。

●9/24
らいてう、長男・敦史出産。

●9/25
野枝、長女・魔子(真子~1968年)出産。
➡大杉「巣鴨から」(『文明批評』創刊号)
『大正自由人物語』(p105)

大杉、安成二郎に葉書を書く。
➡安成二郎『無政府地獄』「大杉君の遺児達」

●9/30
大杉宅にこのころから村木源次郎が同居。

●このどん底時代を村木源次郎が
『改造』1923年11月号に執筆。

大杉、野沢重吉夫人にお金を貸す。
➡安成二郎『無政府地獄』「挿話」

【10月】
●神近、『引かれものの唄』書き上げる。

●10/3
神近、東京監獄八王子分監に服役。

●内藤民治が『中外』創刊。
軍国主義反対雑誌。
長江の処女戯曲「円光」
堺の翻訳「野性の呼声」
➡『知の巨人 評伝 生田長江』p188

●10/24
大杉栄翻訳『相互扶助論』
(クロポトキン)を春陽堂より出版。
宮本常一、小川未明らに影響を与える。

【11月】
●11/7
ロシアのペトログラードで十月革命。

立憲民主党(カデット)主導の
臨時政府が倒され、
ボリシェヴィキ主導のソヴィエト
(労働者・農民・兵士の評議会)に
権力が集中する。

ロシアが議院内閣制の国から
社会主義国へと変貌。

新政府はロシア国内の
反ボリシェヴィキ勢力や、
ロシア革命に介入した国々との戦争
ロシア内戦)が
1918年から1922年まで続く。

赤軍(共産主義者・十月革命側)

白軍(ロシア右派、共和主義者、
君主主義者、保守派、自由主義者)

ボリス・サヴィンコフなどの率いる緑軍
(社会革命党系、農民パルチザン)

ネストル・マフノ率いる黒軍(アナーキスト)

CWRArticleImage
From Wikimedia Commons

【12月】
●12/27
大杉と野枝、『文明批評』創刊号を発行。
3号まで続く。

大杉「僕等の自負」
大杉「正義を求める心」

〈生命とは、要するに、復讐である。
生きて行くことを妨げる邪魔者に対する
普段の復讐である。
復讐はいっさいの生物にとっての
生理的必要である。〉

●野枝「嫁泥棒譚」(『女の世界』)。

●12/29
大杉と野枝、
巣鴨から南葛飾郡亀戸町
2400に転居。

●12/31
大杉と野枝、魔子を連れ
大森の山川夫妻宅を訪れ正月を迎える。

伊藤野枝年譜 索引