詳伝・伊藤野枝

詳伝・伊藤野枝

「詳伝・伊藤野枝」第150回 ブレシコ・ブレシコフスカヤ

文●ツルシカズヒコ 一九一五(大正四)年、三月二十六日、葉山の日蔭茶屋に到着した大杉は、風邪気味だったのですぐ床についた。 鼻水が出る。 少し熱加減だ。 汽車の中でもさうであつたが、妙に興奮してゐて、床に就いても眠られない。 彼女の事ばかり...
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「詳伝・伊藤野枝」第149回 羞恥と貞操

文●ツルシカズヒコ ようやく本題に戻った大杉は、野枝の書いた「貞操についての雑感」を批評し、まず野枝の思考がまだ浅いことを指摘した。 野枝さん。 ……あなたは、女の一大感情たる「ほとんど本能的に犯すべからざる」、この貞操や童貞や羞恥の根本的...
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「詳伝・伊藤野枝」第148回 新貞操論

文●ツルシカズヒコ 『新公論』四月号が「性欲問題(其壱)新貞操論」を特集したが、大杉は「処女と貞操と羞恥とーー野枝さんに与えて傍らバ華山を罵る」という原稿を書いた。 大杉は貞操に関する持論を展開、生田花世、原田皐月、野枝、らいてうらの貞操論...
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「詳伝・伊藤野枝」第147回『三太郎の日記』

文●ツルシカズヒコ 『青鞜』一九一五(大正四)年三月号「編輯室より」が、野枝の『青鞜』二代目編集長としての孤軍奮闘、いや悪戦苦闘を伝えている。 ●毎月校正を済ますとほつとしますけれども直ぐ後からいら/\して来ます。何故こう引きしまつたものが...
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「詳伝・伊藤野枝」第146回 中村狐月

文●ツルシカズヒコ 大杉が野枝宅を訪れたのは、『青鞜』二月号が大杉のところに送られてきてから十日ほどだった、二月十日ごろだった(大杉豊『日録・大杉栄伝』)。 一日も早く彼女に会いたいと思いながらも、体調がすぐれず、急ぎの仕事もあった。 そし...
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「詳伝・伊藤野枝」第145回 ゾラ

文●ツルシカズヒコ 大杉が野枝から受け取った手紙は、何か新しいものをもたらすものではなく、彼女の考えのことさらの表明にすぎなかった。 しかし、彼女のそのことさらの表明が大杉は嬉しかった。 特に著書の批評をするのに、これほどまでいろいろと神経...
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「詳伝・伊藤野枝」第144回 谷中村(九)

文●ツルシカズヒコ 大杉は谷中村の話には、すぐに見当がついた。 堺利彦からその話を聞いていたからだ。 ふたりは数日前に、こんな会話を交わしていた。 「谷中村から嶋田宗三という男が来て、たいぶ面白い話があるんだ。貯水池の沼の中にまだ十四、五軒...
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「詳伝・伊藤野枝」第143回 谷中村(八)

文●ツルシカズヒコ 渡辺政太郎(まさたろう)の谷中村行きは実行されなかった。 せっかく最終の決心にまでゆきついた人々に、また新しく他人を頼る心を起こさしては悪いという理由で、他から止められたからである。 渡辺は野枝のために、谷中村に関するこ...
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「詳伝・伊藤野枝」第142回 谷中村(七)

文●ツルシカズヒコ こんなにも苦しんで、自分はいったい何をしているのだろう。 余計な遠慮や気兼ねをしなければならないような狭いところでで、折々思い出したように自分の気持ちを引ったててみるくらいのことしかできないなんて? 野枝はこんな誤謬に満...
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「詳伝・伊藤野枝」第141回 谷中村(六)

文●ツルシカズヒコ 渡辺政太郎(まさたろう)が訪れた次の日も、その次の日も、野枝は目前に迫った仕事の暇には、黙ってひとりきりで谷中村の問題について考えていた。 Tの云つた事も、漸次に、何の不平もなしに真実に、受け容れる事が出来て来はしたけれ...
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「詳伝・伊藤野枝」第140回 谷中村(五)

文●ツルシカズヒコ 野枝は黙った。 しかし頭の中では、一時に言いたいことがいっぱいになった。 辻の言ったことに対しての、いろいろな理屈が後から後からと湧き上がってきた。 辻はなお続けて言った。 『お前はまださつきのM(※渡辺政太郎)さんの興...
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「詳伝・伊藤野枝」第139回 谷中村(四)

文●ツルシカズヒコ 渡辺政太郎(まさたろう)、若林八代(やよ)夫妻が辞し去ってから、机の前に坐った野枝は、しばらくしてようやく興奮からさめて、初めていくらか余裕のある心持ちで考えてみた。 けれど、その沈静は野枝の望むような批判的な考えの方に...