コウコラム:「服を買わない生活」の中で考えたアレコレを書きます

第2089回 川崎・登戸20人殺傷事件に思うこと


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28日に川崎市多摩区(小田急線・南武線の登戸駅近く)で発生した20人死傷事件には注目しました。スクールバスを待っていたカリタス学園の小学生と、同校生徒の保護者でもある外務省職員の男性が、51歳の男性に刃物で刺されて死亡した事件です。

カリタス学園って学校を知らなかったのですが、コウ手芸部の川崎市在住の人に聞いたら、「地元では有名な学校です。たぶん(川崎市の人は)誰でも知ってます」とのこと。コウ手芸部には川崎市から通っている人が複数います。ひとりで電車に乗って通ってくる中学生もいます。そういう意味でもこの事件には注目しました。

普段、あまりテレビを見ないので、お昼を食べるときは意識して、せめてNHKのニュースを見ようと心がけているくらいなんですが、ここ数日は、この事件を扱う民放テレビ局を熱心に見てしまいました。51歳男性の境遇は、現在の日本社会(いや、世界の?)の負の部分を多く反映していると思います。男性の年齢が、56歳の私と近いこともあり、時代的な背景を推察しやすく、そういう点でも注目する事件です。

この事件に注目しているうちに、最近、聞いた話のいくつかのこととリンクさせて考えてしまいました。コウ手芸部の某さんから聞いた「コーチング」の話と、編集者でライターの60代男性が取材先の某大学で体験した、明らかに自己啓発セミナーの手法である「課外授業」のことです。

「コーチング」は、正確にはどんなものか知りませんが、コウ手芸部参加者などからときどき「参加した」「友だちが参加した」「会社で取り入れている」という話を聞きます。ざっくりいうと、「きびしいけれども、自分ががんばれば、がんばった分の報酬的なものが得られる」「教わった方法はあくまでマニュアルであり、あとは自己責任でおこなう」という部分に、いやあ、それって自己啓発セミナーだろ、と感じました。

正社員が減らされ、非正規雇用が増え、低賃金長時間労働がフツーになっている社会状況を背景に「フリーランス」や「副業」あるいは「起業」を指向する人が増えているらしく、そうしたゆがんだ労働状況を背景に、社会のほうは変わらないから、「一人でがんばれ、自分だけ勝ち抜け」的な発想の「自己啓発」が流行っているのだなということがよくわかります。

話を聞いて、「えっ、それって自己啓発セミナーじゃないの?」と私がいうと、たいがい相手はフツーに「そうですね」と答えます。ビックリなのは、「自己啓発」という単語に、最近の若者はまったく抵抗がないんですね。むしろ、よいことという認識なんですね。いや、もちろん、いい意味で使う場合もあるし、「エンライトメント」という英語が多様されている状況を見ると、西洋社会的(?)にはいいことという認識なんでしょうか。

自己啓発セミナーは、ベトナム戦争からの帰還兵に対して行われたもので、アメリカ発祥といわれます。そうした、「心の改造」が「システム化」され、ある集団にとって都合のいい人間の改造に利用されているというのは問題だと思います。

私が若かった1980年代後半から1990年代前半には、自己啓発ものは、新しいものとして流行っていました。オウム事件なども一連のそうした動きのなかにあったと思います。学校や企業が、自己啓発を取り入れはじめたころで、その「被害」も伝えられ、少なくとも私のまわりでは「危険なもの」という認識でした。

実際、私自身も、当時、よく仕事をしていた人(というか、自分の連載の担当編集者)に、事前にその内容を知らされず、連れて行かれたことがあります。うっすら、そういうものについて情報を得ていたので、入ってすぐに「おかしい」と感じ、タイミングを見て退出を申し出ると、講師や参加者に取り込まれて「説得」されるという体験をしました。あの恐ろしさは、いま思い出してもコワい。相手が、「善意」のつもりであるだけに、非常に恐ろしいものだと感じました。

そして、やはり、別の出版社で、そうした自己啓発を社員教育として行っていた会社があり、やはり、私の担当編集者だった女性が、自己啓発研修を受けたあとに精神に変調をきたし、会社の上階から飛び降りて自殺したことがありました。複数人で親しくしていたので、彼女の変化していく様子はよくわかり、自己啓発なるものが人間の心に与える影響の大きさを実感しました。さらに恐ろしいなと思ったのは、同僚が、自殺した彼女を、「きびしさに耐えられない弱い人間」と認識していたことです。そうした認識も、自己啓発研修による認識ではないかと感じました。

自己啓発研修というのは、落ちこぼれた側にも、打ち勝って生き抜いたほう、どちらにも害はあると私は感じます。しかし、外側にいた私にも影響はあったのです。当時、私は、自殺した彼女をどうして救ってあげられなかったのかと思い悩みました。実際、そうしたセリフを、彼女が勤務していた会社の同僚たち(当時はしばらく彼女たちとも仕事していたので)にいいました。すると、同僚たちは、「コウさんみたいに、なぜ救ってあげられなかったのかと悩む人たちはほかにもいる。しかし、救ってあげられないのだ。そういう運命の弱い人だったのだ」というのです。自己啓発の効果やおそるべし。どうしても、よいシステムには思えません。

それが、いま、フツーに学校や企業で「人間教育」の一環として取り入れられているというのは恐ろしいことです。背景には、世界規模で、弱肉強食(別名、自己責任)のシステムが構築されていることがあるのでしょう。20〜30年前は、弱肉強食システムが「新しかった」から、その危険性が目に見えたんだけれども、そのシステムがフツーに存在するようになったら、その危険性に気付けなくなった。いや、気付けないように巧妙にシステムの一部となったということか。

弱肉強食システムは、弱い人は死んでもいいという認識を広め、「孤立」を生むシステムでもあると思います。弱肉強食システムは「孤立」しないことが勝つことだと教えてもいるのだと思いますが、あることを信奉する閉じた集団に属させる、属さないことは「孤立」であり、負けだと教え込む。「孤立」を恐怖だと認識させて、そこに属させるというか。

ソーイングを教わりに来る人は、普段属す集団から離れてみたいという欲求もあるのではないかと思いますが、フツーにそうした自己啓発体験を私に話してくれます。逆に、危険なことだと思ってないから話すんだろうけど。相手の日常生活の「異者」である私は、「えっ、それっておかしいんじゃ?」と言えます。まあ、だから、やめるってこともないだろうけど、しばらく時間がたって、「コウ先生が前に言ったことの意味がわかりました」と言った人もいるので、感じたことをいうのは悪いことではないような気がします。そして、会話というのは大事だとも思います。


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