詳伝・伊藤野枝

詳伝・伊藤野枝

「詳伝・伊藤野枝」第144回 谷中村(九)

文●ツルシカズヒコ 大杉は谷中村の話には、すぐに見当がついた。 堺利彦からその話を聞いていたからだ。 ふたりは数日前に、こんな会話を交わしていた。 「谷中村から嶋田宗三という男が来て、たいぶ面白い話があるんだ。貯水池の沼の中にまだ十四、五軒...
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「詳伝・伊藤野枝」第143回 谷中村(八)

文●ツルシカズヒコ 渡辺政太郎(まさたろう)の谷中村行きは実行されなかった。 せっかく最終の決心にまでゆきついた人々に、また新しく他人を頼る心を起こさしては悪いという理由で、他から止められたからである。 渡辺は野枝のために、谷中村に関するこ...
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「詳伝・伊藤野枝」第142回 谷中村(七)

文●ツルシカズヒコ こんなにも苦しんで、自分はいったい何をしているのだろう。 余計な遠慮や気兼ねをしなければならないような狭いところでで、折々思い出したように自分の気持ちを引ったててみるくらいのことしかできないなんて? 野枝はこんな誤謬に満...
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「詳伝・伊藤野枝」第141回 谷中村(六)

文●ツルシカズヒコ 渡辺政太郎(まさたろう)が訪れた次の日も、その次の日も、野枝は目前に迫った仕事の暇には、黙ってひとりきりで谷中村の問題について考えていた。 Tの云つた事も、漸次に、何の不平もなしに真実に、受け容れる事が出来て来はしたけれ...
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「詳伝・伊藤野枝」第140回 谷中村(五)

文●ツルシカズヒコ 野枝は黙った。 しかし頭の中では、一時に言いたいことがいっぱいになった。 辻の言ったことに対しての、いろいろな理屈が後から後からと湧き上がってきた。 辻はなお続けて言った。 『お前はまださつきのM(※渡辺政太郎)さんの興...
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「詳伝・伊藤野枝」第139回 谷中村(四)

文●ツルシカズヒコ 渡辺政太郎(まさたろう)、若林八代(やよ)夫妻が辞し去ってから、机の前に坐った野枝は、しばらくしてようやく興奮からさめて、初めていくらか余裕のある心持ちで考えてみた。 けれど、その沈静は野枝の望むような批判的な考えの方に...
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「詳伝・伊藤野枝」第138回 谷中村(三)

文●ツルシカズヒコ 今まで十年もの間、苦しみながらしがみついて残っていた土地から、今になってどうして離れられよう。 村民の突きつめた気持ちに同情すれば溺れ死のうという決心にも同意しなければならぬ。 といって、手を束(つか)ねてどうして見てい...
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「詳伝・伊藤野枝」第137回 谷中村(二)

文●ツルシカズヒコ 谷中村の土地買収が始まると、躍起となった反対運動も、なんの効も奏しなかった。 激しい反対の中に買収はずんずん遂行された。 しかし、少数の強硬な反対者だけはどうしても肯(がえ)んじなかった。 彼らは祖先からの由緒をたてに、...
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「詳伝・伊藤野枝」第136回 谷中村(一)

文●ツルシカズヒコ 一九一五(大正四)年一月の末、寒い日だった。 渡辺政太郎(まさたろう)、若林八代(やよ)夫妻はいつになく沈んだ、しかしどこか緊張した顔をして、辻家の門を入ってきた。 辻は渡辺政太郎との親交について、こう書いている。 染井...
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「詳伝・伊藤野枝」135回 ジャステイス

文●ツルシカズヒコ しかし、野枝だけは青鞜社の仲間の中でも違った境遇にいた。 一旦は自分から進んで因習的な束縛を破って出たけれど、いつか再び自ら他人の家庭に入って因習の中に生活しなければならぬようになっていた。 野枝は最初の束縛から逃がれた...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」134回 生き甲斐

文●ツルシカズヒコ 一九一五(大正四)年一月末の深夜ーー。 吹雪の中、春日町(かすがちょう)で一(まこと)を背負って電車を待っていた野枝は、二年前のあの夏の日のことを思い浮かべていた。 ヒポリット・ハヴェルが書いた「エマ・ゴールドマン小伝」...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」133回 ウォード

文●ツルシカズヒコ 野枝が『青鞜』の同人のひとりである山田わかを訪ねたとき、山田嘉吉がわか夫人のために、社会学の書物を読む計画があるから勉強する気ならと誘われ、野枝は毎週二回くらいずつ通うことにした。 ウォードの書物を入手するのは困難なので...