詳伝・伊藤野枝

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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」54回 西村陽吉

文●ツルシカズヒコ 一九一二(大正元)年十二月、『青鞜』新年号の編集作業が佳境になったころ、野枝は一日おきくらいに、らいてうの円窓の部屋に通っていた。 しばらく、野枝は紅吉とは遭遇しなかった。 行くたびに哥津ちゃんと会った。 野枝は少しずつ...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」53回 玉名館

文●ツルシカズヒコ「失敬失敬、上がりたまえ」 取り次ぎに出た年増の女中の後から、紅吉は指の間に巻煙草をはさんで、セルの袴姿でニコニコしながら出て来て、紅吉一流の弾け出るような声で野枝を引っ張り上げた。 野枝が案内された部屋には綺麗な格好のい...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」52回 阿部次郎

文●ツルシカズヒコ 一九一二(大正元)年十一月の末。 その日は夕方から、青鞜社の事務所がある本郷区駒込蓬萊町万年山(まんねんざん)勝林寺で、阿部次郎がダンテの『神曲』の講義をする研究会のある日だった。 毎月一日発行の『青鞜』の校了は前月の二...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」51回 伊香保

文●ツルシカズヒコ 『元始、女性は太陽であった 平塚らいてう自伝(下巻)』(p397)によれば、一九一二(大正元)年十月十七日、『青鞜』一周年記念会が鴬谷の「伊香保」で開かれた。 「伊香保」は当時、文人墨客がよく利用する会席料理屋として知ら...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」50回 若い燕(二)

文●ツルシカズヒコ 紅吉は奥村から届いた「絶交状」への返信を書いた。 私はけさ、広岡の家であなたの最後の手紙をみた。 それから今家に帰ってあなたからの同じ手紙を見た。 私はああした感情に走り切るあさはかな女でした。 私は是非あなたに逢いたい...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」49回 若い燕(一)

文●ツルシカズヒコ らいてうが奥村から受け取った手紙の文面は、こんなふうだった。 それは夕日の光たゆたっている国のことでした。 その国の、とある海辺の沼に二羽の可愛い鴛鴦(おしどり)が住んで居りました。 それはそれは大そう睦まじく……いつも...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」48回 新妻莞

文●ツルシカズヒコ 奥村は藤沢の実家から転送されて来た、紅吉からの二通めの手紙を受け取った。 簡単な絶交状だったが、奥村はともかくらいてうに知らせておこうと思い、さっそく手紙を書いた。 手紙と《青鞜》ありがとう。 雑誌は待ち切れず、三崎郵便...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」47回 モンスター

文●ツルシカズヒコ 奥村は画家の視点で、らいてうをヴァン・ダイクが描いた『オランジュ公と許嫁』のプリンセス・マリイのようで、さらにボッティチェッリやラファエロが描くマドンナが「この人の内にある」と思った。 中世の貴族を思わす端正な顔、小柄な...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」46回 ロゼッチの女

文●ツルシカズヒコ 伊藤野枝「雑音」(『大杉栄全集別冊 伊藤野枝全集』/『定本 伊藤野枝全集 第一巻』)に、らいてうと奥村が一夜をともにした件について、紅吉が野枝に語って聞かせる場面がある。 「雑音(十六)」によれば、らいてうと奥村が一夜を...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」45回 雷鳴

文●ツルシカズヒコ 西村と奥村が南湖院を訪れてから二、三日すると、写生の帰りだといって画材を持った奥村が突然、らいてうの宿を訪ねて来た。 描き上がったばかりの「南郷」という松林のスケッチを見せてもらったらいてうは、ふと『青鞜』一周年記念号の...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」44回 運命序曲

文●ツルシカズヒコ『元始、女性は太陽であった 平塚らいてう自伝(下巻)』(p381)と奥村博史『めぐりあい 運命序曲』(p31~32)によれば、一九一二(大正元)年八月の半ばを過ぎた日のことである。 この日の午前中、奥村博は実家から一キロの...
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「あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝」43回 南郷の朝

文●ツルシカズヒコ 青鞜社内からも非難され追いつめられた紅吉は、らいてうの短刀で自分の腕を傷つけた。 いったいどういう激情に動かされたものか、自分を責めようとする激動の発作からか、紅吉は自分の左腕に刃物をあてたのでした。 厚く巻いた繃帯をほ...