詳伝・伊藤野枝

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「詳伝・伊藤野枝」第223回 フリーラブ

文●ツルシカズヒコ 以下、『神近市子自伝 わが愛わが闘争』に沿って、日蔭茶屋事件を見てみる。 大杉が初めて麻布区霞町の神近の家に泊まったのは、一九一五(大正四)年の秋だったという。 私は自分の一生の悲劇は、恋愛というものを、本能によらず、頭...
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「詳伝・伊藤野枝」第222回 豚に投げた真珠

文●ツルシカズヒコ 思い迷っていた神近は一度、蒲団から起き出し、大杉を起こして自分の頭に往来している気持ちを話し、その上で自分と別れてくれないかと頼んでみようかと考えた。 しかし、大杉の思い上がった他人を侮蔑した態度、それに長い間苦しめられ...
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「詳伝・伊藤野枝」第221回 短刀

文●ツルシカズヒコ 大杉が書いた「お化を見た話」が掲載されたのは『改造』一九二二年九月号だったが、この「お化を見た話」の反論という形で神近が書いたのが「豚に投げた真珠」で、同誌の次号(一九二二年十月号)に掲載された。 「豚に投げた真珠」に沿...
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「詳伝・伊藤野枝」第220回 私は何もしない

文●ツルシカズヒコ 日蔭茶屋の道に面した棟に到達した神近は、その一階から二階に通じる階段を駆け上がった。 日蔭茶屋の出入口はこの棟の二階にあったからである。 とつ付の部屋には二三人で飲食したらしいチヤブ台が、その儘(まま)残してありました。...
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「詳伝・伊藤野枝」第219回 陽が照ります

文●ツルシカズヒコ 神近は大杉と誠実な話し合いをしたかった。 その希望が断たれた彼女が床の上に起き上がっていたのは、一九一六(大正五)年十一月九日、零時ごろだったろうか。 眠ることによってすべてを忘れようと努めたが、どうすることもできなくな...
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「詳伝・伊藤野枝」第218回 お源さん

文●ツルシカズヒコ 前回に引き続き、神近市子『引かれものの唄』の記述に沿って、神近が警察に自首するまでを追ってみたい。 一九一六(大正五)年十一月八日、日蔭茶屋のある神奈川県三浦郡葉山村字堀の内の光景について、神近はこう記している。 秋の末...
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「詳伝・伊藤野枝」第217回 キルク草履

文●ツルシカズヒコ 神近市子が日蔭茶屋事件について言及している、以下の三つの資料に沿って、この事件に迫ってみたい。 ●『引かれものの唄』 ●「豚に投げた真珠」(『改造』1922年10月号/『神近市子文集1』) ●『神近市子自伝 わが愛わが闘...
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「詳伝・伊藤野枝」第216回 午前三時

文●ツルシカズヒコ 一九一六(大正五)年十一月九日、日蔭茶屋のどこかの時計が午前三時を打った。 ふと、大杉は咽喉のあたりに熱い玉のようなものを感じた。 「やられたな」 と思って、いつのまにか眠ってしまった大杉は目を覚ました。 「熱いところを...
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「詳伝・伊藤野枝」第215回 だけど

文●ツルシカズヒコ 一九一六(大正五)年十一月八日、夕食をすませると大杉はすぐに寝床を敷かせて横になった。 神近はしばらく無言で座っていたが、やがてそばの寝床に寝た。 大杉は長年の病気の経験から、熱のあるときは興奮を避けてできるだけ何も考え...
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「詳伝・伊藤野枝」第214回 寺内内閣

文●ツルシカズヒコ 一九一六(大正五)年十一月八日、大杉が目を覚ましたときには、もうかなり日は高かった。 神近も野枝も無事でまだ寝ていた。 朝食をすますと、野枝はすぐ日蔭茶屋を出て帰京した。 神近は野枝の帰京を疑っている口ぶりだった。 野枝...
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「詳伝・伊藤野枝」第213回 大崩れ

文●ツルシカズヒコ 一九一六(大正五)年十一月六日、大杉と野枝は神奈川県三浦郡葉山村字堀の内の日蔭茶屋に泊まった。 部屋はお寺か田舎の旧家の座敷のような広い十畳に、幅一間ほどの古風な大きな障子の立っている、山のすぐ下のいつも大杉が宿泊する部...
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「詳伝・伊藤野枝」第212回 抜き衣紋

文●ツルシカズヒコ 一九一六(大正五)十一月六日、大杉と野枝は茅ケ崎経由で葉山に向かった。 近藤富枝『本郷菊富士ホテル』によれば、この日の野枝は近くの髪結で銀杏返しに結い、縞のお召の着物を着て白粉も濃く、何やら浮き浮きしたようすだったので、...