詳伝・伊藤野枝

詳伝・伊藤野枝

「詳伝・伊藤野枝」第199回 私達の関係

文●ツルシカズヒコ 一九一六(大正五)年五月九日。 麹町区三番町の下宿、第一福四万館で夕飯をすませた大杉に、堀保子からすぐ来てくれという電話がかかってきた。 大杉が四谷区南伊賀町の保子の家に行くと、何か用事があるわけではなかった。 保子は涙...
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「詳伝・伊藤野枝」第198回 金盞花 (きんせんか)

文●ツルシカズヒコ 五月八日、野枝は午前中に十枚ほど原稿を書いた。 午後は流二のお守りをして過ごした。 前日の嵐がひどかったので、別荘の掃除が大変だと言って、婆やが午後から暇をもらったからである。 この日の御宿の夕方は風がなく、野枝が御宿に...
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「詳伝・伊藤野枝」第197回 カンシヤク玉

文●ツルシカズヒコ 五月八日の夕方、読売新聞社を訪れた大杉だったが、荒川義英も同社に来ていたので、大杉、土岐、安成、荒川の四人は一緒に社を出た。 すると一行は道で荒畑寒村に遭遇した。 ともかくみんなでカフェ・ヴィアナに入った。 いろんな話の...
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「詳伝・伊藤野枝」第196回 豆えん筆

文●ツルシカズヒコ 大杉栄、堀保子、神近市子、伊藤野枝–––当事者たちに会って、今回の騒動の真相を知りたいと考えたジャーナリストがいた。 『女の世界』編集長の安成二郎である。 安成の視点は新聞記事から一歩踏み込んだ、雑誌ジャーナリズムの視点...
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「詳伝・伊藤野枝」第195回 青鉛筆

文●ツルシカズヒコ 大杉からの五月六日の手紙に、野枝はこう返信した。 停車場を出ると、前の支店でしばらく休んで、それから宿に帰へりました。 帰つてからも室(へや)にゆくのが何んだかいやなので、帳場で話をして、それから室にはいると直ぐあの新聞...
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「詳伝・伊藤野枝」第194回 電話

文●ツルシカズヒコ 大杉が御宿の上野屋旅館にやって来たのは五月四日だった。 大杉は上野屋旅館に五月六日まで滞在した。 五月五日、この日、野枝と大杉は勝浦に行った可能性が高い。 野枝の手紙(「書簡 大杉栄宛」一九一六年五月九日・一信)に「今日...
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「詳伝・伊藤野枝」第193回 パツシヨネエト

文●ツルシカズヒコ 一九一六(大正五)年五月三日、野枝は大杉から三通目の手紙を受け取った。 ……三十日と一日の二通のお手紙が来ている。 本当にいい気持になつて了つた。 僕はまだ、あなたに、僕の持つてゐる理窟なり気持なりを、殆ど話した事がない...
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「詳伝・伊藤野枝」第192回 蓄音機

文●ツルシカズヒコ 五月二日、野枝は大杉からの二通目の手紙を受け取った。 四月三十日、神近が大杉に会いに来て泊まっていったという。 ●……神近が来た。 四五日少しも飯を食わぬさうで、ゲツソリと痩せて、例の大きな眼を益々ギヨロつかせてゐた。 ...
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「詳伝・伊藤野枝」第191回 狐さん

文●ツルシカズヒコ 五月一日、野枝は大杉からの手紙を受け取った。 ながい間憧憬してゐたらしい、御宿の、ゆうべの寝心地はいかに。 こちらでは、よる遅くなつてから降り出したが、そちらでも同じ事だつたらうと思ふ。 別れ、旅、雨、などと憂愁のたねば...
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「詳伝・伊藤野枝」第190回 上野屋旅館

文●ツルシカズヒコ 御宿に滞在中の野枝は、一九一六(大正五)年四月三十日、大杉に手紙を書いた。 かうやつて手紙を書いてゐますと、本当に遠くに離れてゐるのだと云ふ気がします。 あなたは昨日別れるときに、ふり返りもしないで行つてお仕舞ひになつた...
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「詳伝・伊藤野枝」第189回 両国橋駅

文●ツルシカズヒコ 辻の家を出た野枝は、とりあえず神田区三崎町の玉名館に身を落ちつけた。 玉名館は荒木滋子、郁子姉妹の母が経営する旅館兼下宿屋である。 荒木滋子は七年後、甘粕事件で野枝が虐殺された直後にこう回想している。 いつでしたか、ずつ...
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「詳伝・伊藤野枝」第188回 白山下

文●ツルシカズヒコ 野枝はそのころの自分の感情や考えを、青山菊栄にもうまく話せていなかったようだ。 菊栄はこう書いている。 其頃(※一九一六年春ごろ)から例の大杉さんを中心に先妻と神近市子氏と野枝さんとが搦(から)み合つた恋の渦巻が捲き起こ...